近年、航空業界ではCO2削減を目的に「SAF(持続可能な航空燃料)」の導入が急速に進んでいます。特に廃食用油から作られるSAFは、限りある資源を有効活用できる点で注目を集めています。
しかし、どのような工程を経て「使用済みの油」が「飛行機を動かす燃料」になるのか、詳しく知る機会は多くありません。
本記事では、廃食用油を原料としたSAFの製造方法をわかりやすく解説し、事業者にとっての活用メリットや意義を紹介します。
SAFとは?基礎知識と注目される理由
SAF(Sustainable Aviation Fuel)とは、持続可能な資源を利用して生産される航空燃料の総称です。
従来のジェット燃料は石油由来であり、燃焼時に大量のCO2を排出します。一方のSAFは、廃油などの再生可能な原料を使うため、ライフサイクル全体でのCO2排出量を大幅に抑えられるのが特徴です。

実際に、国際航空運送協会(IATA)は、2050年までのカーボンニュートラル実現に向け、SAFの普及を最重要課題の一つに掲げています。特に廃食用油を原料とする場合、資源を再利用しながら排出削減に貢献できる点で評価が高く、欧州や日本でも導入が加速中です。
つまり、廃食用油のリサイクルは環境保全だけでなく、企業の社会的責任を果たす手段としても注目されています。
SAFの製造方法の全体像
廃食用油からSAFが製造されるまでには、大きく分けて以下3つの工程があります。
- 回収と前処理
- 水素化処理
- 分別・精製
ここからは、それぞれのステップについて具体的に解説していきます。
STEP①:廃油の回収と前処理
SAF製造の第一歩は、廃食用油の回収です。
飲食店や食品工場などで使用済みとなった油は、無料回収や一部の有価買取によって集められます。これらの油はそのままでは燃料に適さず、水分や食品カスなどの不純物が多く含まれています。
そのため、製造過程に進む前に徹底した前処理が必要です。
具体的には、ろ過や遠心分離によって固形物を除去し、さらに脱水工程で水分を取り除きます。この段階での処理品質が低いと、後工程での化学反応が安定せず、燃料規格を満たせなくなる可能性があります。
したがって、前処理はSAFの安定供給を支える重要なプロセスといえます。近年では、効率的な前処理装置の導入やAIによる品質管理も進んでおり、供給拡大の鍵を握る工程となっています。
STEP②:水素化処理
前処理された廃食用油は、「水素化処理」と呼ばれる工程に進みます。
これは油に水素を反応させて炭化水素を生成するプロセスで、石油精製技術を応用したものです。この過程で油に含まれる硫黄や酸素といった不要な成分を取り除き、安定した燃料成分へと変換していきます。
水素化処理は高温・高圧の環境で行われ、触媒を使って効率的に反応を進めます。得られる生成物は軽油やナフサに似た性質を持ちますが、その中から航空燃料に適した炭化水素が抽出されます。
廃食用油を利用したSAFの大半は、この水素化処理技術を活用した「HEFA(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)」方式で生産されています。既存の石油精製設備を活用できる点も強みであり、拡大が期待される製造プロセスです。
STEP③:分別・精製
水素化処理を終えた燃料は、そのままでは航空機用として利用できないので、ここで必要になるのが「分別・精製(Distillation & Refining)」という工程です。
蒸留によって得られた炭化水素を沸点ごとに分け、ジェット燃料に適した成分を抽出します。その後、さらに精製を重ねることで硫黄分や金属類などの不純物を徹底的に除去し、安定した品質を確保します。
航空燃料は国際的な規格(ASTM D7566など)に適合することが必須条件であり、燃焼特性や凍結点、揮発性といった厳しい基準を満たさなければなりません。
この最終工程を経ることで、廃食用油由来のSAFは安全性と性能を兼ね備えた「航空機が安心して使用できる燃料」へと仕上がります。
SAF製造に活用される技術の種類
SAFの製造方法は一つではなく、複数の技術が実用化または開発段階にあります。ここでは、現在広く利用されている手法から将来有望な技術まで、代表的な3種類を紹介します。
SAF製造技術①:HEFA方式(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)
最も普及しているSAF製造手法がHEFA方式です。
廃食用油や植物油を原料とし、水素化処理によって炭化水素を取り出す方法で、すでに世界各国で商業的に利用されています。特に、既存の石油精製プラントを一部改良して生産できる点が大きな強みであり、大規模導入に適しています。
2024年時点で世界のSAF生産量の約8割以上がこの方式によるものであり、日本国内でも実証プロジェクトが進行中です。課題はコストの高さですが、量産化や技術改善が進めば、廃食用油を中心とした安定供給の中核技術になると期待されています。
SAF製造技術②:FT合成(Fischer-Tropsch)
FT合成は、都市ごみや木質バイオマスをガス化し、一酸化炭素と水素の混合ガスから液体燃料を合成する方法です。ドイツで開発された歴史ある技術ですが、近年は再生可能資源を活用したSAF製造に応用されています。
原料が多様であるため、廃食用油だけに依存せず大量生産できる可能性を秘めています。欧州ではすでにパイロットプラントが稼働しており、米国でも2030年に向け商業化が期待されています。
エネルギー変換効率の改善が求められるものの、将来の供給量拡大を支える有望な製造手法と位置付けられています。
SAF製造技術③:ATJ方式(Alcohol-to-Jet)
ATJ方式は、糖質やセルロース系バイオマスを発酵させてアルコールを生成し、それを触媒反応によってジェット燃料へ変換する手法です。トウモロコシやサトウキビなどを原料とするケースが多く、理論的には広範な資源を利用できます。
ただし現時点では商業規模での普及は限定的で、米国や日本で実証研究が進む段階です。エタノール産業との連携が進めば、将来的にコスト削減と安定供給に貢献する可能性があります。
SAF製造技術の比較
| 製造方法 | 主な原料 | 特徴 |
| HEFA | 廃食用油、植物油 | 最も普及、既存設備を活用 |
| FT合成 | 都市ごみ、木質バイオマス | 原料多様、将来性が高い |
| ATJ | トウモロコシ、サトウキビ、セルロース | アルコール経由で製造 |
SAFの未来を切り開く廃食用油の可能性
廃食用油を活用したSAFは、環境負荷の低減と資源循環の両立を実現する重要な取り組みです。HEFA方式を中心に商業化が進む一方、FT合成やATJなど新しい技術の開発も加速しており、将来的には多様な資源からの大量供給が可能になると期待されています。
現状ではコストや供給量の制約がありますが、政策支援や技術革新により課題は解決に向かっています。
事業者にとって廃食用油を正しく回収し、燃料原料として活用することは、環境対応型ビジネスの実践であり、社会的な信頼獲得にも直結します。
「いま目の前にある使用済みの油が、未来の航空機を動かす力に変わる。」という、その可能性を理解したうえで、持続可能な社会づくりに貢献していくことが求められています。
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